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千葉地方裁判所 昭和56年(ワ)176号 判決

原告

橘扶美子

ほか一名

被告

有限会社関商会

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告橘扶美子に対し金三六五五万一〇三五円、同橘敬治に対し金一〇七一万五九六七円及び原告橘扶美子の内金三五〇五万一〇三五円、同橘敬治の内金一〇一一万五九六七円に対する昭和五五年八月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その各一を原告ら及び被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告橘扶美子に対し六六一五万六六六七円、同橘敬治に対し二二一二万三三三三円及び原告橘扶美子の内金六一二五万六六六七円、同橘敬治の内金二〇一二万三三三三円に対する昭和五五年八月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡橘武治(以下「亡武治」という。)及び同亡橘俊二(以下「亡俊二」という。)は、次の交通事故により死亡した。

(一) 日時 昭和五五年七月一六日午前三時四〇分ころ

(二) 発生場所 千葉県市原市犬成一〇六二番地付近道路(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 被告有限会社関商会保有の普通貨物自動車(多摩一一せ二三四八、以下「被告車」という。)

運転者 被告石渡祥太郎

(四) 被害車 普通乗用自動車(千葉五六ひ四一三六、以下「原告車」という。)

被害者 右自動車を運転中の亡武治及び助手席に同乗中の亡俊二

(五) 事故の態様

被告石渡が被告車を運転して、茂原市方面から千葉市方面に向つて進行するにあたり、本件事故現場において、自車の左前部を道路の左側溝に落とし、かつ、右前部をガードレールに激突させたため、被告車が前輪を軸にして右旋回し、反対車線を跨ぐような形となつたところへ、おりから反対車線を進行して本件事故現場にさしかかつた原告車の右上部に加害車の後部荷台が衝突して、原告車は大破した。

(六) 結果

亡武治は、頭骨骨折、脳挫傷により即死し、亡俊二は、脳挫傷等の傷害を受け、前同月二一日午前零時五六分、右傷害により死亡した。

2  責任原因

(一) 被告石渡

本件事故現場は、緩やかなS字状カーブをなしており、かつ、事故当時は降雨のため路面が濡れ、車両が滑走し易い状態にあつたから、このような場合、自動車運転手としては、制限速度(四〇キロメートル)を遵守し、前方を注視して、ハンドル操作を的確に行なう注意義務があるのに、被告石渡はこれを怠り、制限速度を超えた速度で、前方不注視のまま漫然と進行した過失により、本件事故を惹起した。

(二) 被告会社

被告会社は、被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していた。

3  損害

(一) 葬儀費用

亡武治及び亡俊二の死亡に伴い、昭和五五年七月一八日に亡武治の、同月二二日に亡俊二の、それぞれ葬儀が行われ、葬儀費用として、亡武治につき一〇〇万円、亡俊二につき七〇万円を要し、それぞれ同額の損害を蒙つた。

(二) 逸失利益

(1) 亡武治の逸失利益

イ 亡武治は、本件事故当時、五一歳、(昭和三年七月二〇日生)訴外日本板硝子株式会社に勤務し、本件事故から過去一年間の賃金(昭和五四年八月分から昭和五五年七月分まで)は五八二万九二二三円であつた。

ロ また、同人は、本件事故当時、訴外第一興産株式会社の取締役の地位にあり、役員報酬として月額二〇万円(年間二四〇万円)の収入を得ていた。

ハ 右イ、ロより、本件事故当時の亡武治の年間所得は八二二万円を下らないから、八二二万円を基礎とし、生活費の控除割合を三割、就労可能年数を一六年(稼動年限六七歳)としたうえ、ホフマン方式により中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると六六三七万八一四四円(一万円未満切り捨てにより六六三七万円)となり、これが亡武治の逸失利益である。

822万×0.7×11.536(16年のホフマン係数)=66,378,144

(2) 亡俊二の逸失利益

亡俊二は、死亡時二二歳(昭和三三年一月二六日生)、昭和五一年三月に高等学校を卒業後、昭和五五年五月からは訴外八積運送株式会社に勤務していたのであるが、同社への勤務は暫定的なものであり、これが同人の職業として固定したものとはみなせないので、同人の逸失利益の算定にあたつては、賃金センサスによる高校卒業男子の平均賃金を基礎にするのが相当である。

そこで、昭和五五年度賃金センサスによれば、高校卒業男子の平均賃金(全産業計、全年齢計)は年額三二九万九一〇〇円であるから、これを基礎とし、生活費の控除割合を五割、就労可能年数を四五年(稼動年限六七歳)としたうえ、ライプニツツ方式により中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると二九三一万九一〇一円(一万円未満切り捨てにより二九三一万円)となり、これが亡俊二の逸失利益である。

3,299,100×0.5×17.774(45年のライプニツツ係数)=29,319,101

(三) 慰謝料

亡武治及び亡俊二が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、亡武治につき一三〇〇万円、亡俊二につき一一〇〇万円が相当である。

以上(一)ないし(三)より、亡武治及び亡俊二が本件事故により被つた損害額は、亡武治につき八〇三七万円、亡俊二につき四一〇一万円となる。

4  損害の填補

原告らは、亡武治及び亡俊二の本件事故による死亡につき、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)より、それぞれ二〇〇〇万円の保険金を受領した。

5  相続

(一) 原告扶美子は、亡武治の妻であり、かつ、亡俊二の母である。

原告敬治及び亡俊二は、亡武治の子である。

(二) 原告扶美子は、亡武治の死亡により、法定相続分の割合(三分の一)に従い、前記亡武治の損害賠償請求権を相続し、更に、同人は、亡俊二の死亡により、亡俊二が相続した前記亡武治の損害賠償請求権(法定相続分三分の一)を相続した(合計四〇二四万六六六七円)

また、同人は、亡俊二の死亡により、前記亡俊二の損害賠償請求権を相続した(二一〇一万円)

よつて、同人が亡武治及び亡俊二より相続した損害賠償請求金額は合計六一二五万六六六七円(自賠責保険による填補後)となる。

(三) 原告敬治は、亡武治の死亡により、法定相続分の割合(三分の一)に従い、前記亡武治の損害賠償請求権を相続した。

右請求金額は二〇一二万三三三三円(自賠責保険による填補後)となる。

6  弁護士費用

本件に関する弁護士費用は、原告扶美子につき四九〇万円、同敬治につき二〇〇万円が相当である。

7  よつて、原告らは、被告らに対し、本件事故に基づく損害賠償として、原告扶美子につき六六一五万六六六七円、同敬治につき二二一二万三三三三円及び右六六一五万六六六七円のうち弁護士費用を除いた六一二五万六六六七円、右二二一二万三三三三円のうち弁護士費用を除いた二〇一二万三三三三円に対する不法行為の日以降である昭和五五年八月一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、(一)ないし(三)は認め、(四)、(六)は知らない。(五)のうち、被告車の進行方向及び同車がガードレールに激突し、同車の後部荷台が前輪を軸にして反対車線を誇ぐように旋回した事実は認めるが、その余は否認する。

2  同2の(一)の事実のうち、被告石渡が前方不注視のまま漫然と運行した事実は否認し、その余は認める。同2の(二)の事実は認める。

3  同3の事実中、(二)の(1)イのうち亡武治の日本板硝子株式会社の主張の期間の賃金が五八二万九二二三円であることは認め、その余は知らない。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実は知らない。

6  同6の事実は知らない。

三  過失相殺の主張

被告石渡は、本件事故現場付近を制限速度毎時四〇キロメートルのところ毎時六〇キロメートル近くで進行中、雨模様であり、対向車(原告車)がかなりのスピードで進行して来るのを発見したので、ブレーキを踏んだところスピンし、荷台後部が対向車線上にかかつて停車した。そこへ原告車がかなりのスピードで荷台の下に突つ込んで来たものであり、亡武治にも過失が存する。

四  過失相殺の主張に対する答弁

原告車に過失のあることは否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の(一)ないし(三)の事実、同(五)のうち、被告車の進行方向及び同車がガードレールに激突し、同車の後部荷台が前輪を軸にして旋回し反対車線を跨ぐようになつたことについては当事者間に争いがなく、これらの事実に、成立に争いのない甲第二号証、同第三号証の一ないし三、同第二〇ないし第二八号証を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、北西方向から南東方向に向い、細長く「S」字型に走る幅員約七・六メートルの中央線の標示のある舗装道路であり、前方の見通しはあまり良くなく、車道西側にはガードレールが設置されている。また、右道路は、最高速度が毎時四〇キロメートルに規制されている。なお、本件事故当時は、深夜で、付近に照明はなく、見通しが悪い状況下であつたほか、降雨のため車両が滑走し易い状態であつた。

2  被告石渡は、被告車(車長約七・五五メートル)を運転して、右道路を茂原市方面から千葉方面(南東方向から北西方向に向い、時速約六〇キロメートルで進行中、ゆるい左カーブにさしかかつた際、約一〇〇メートル強前方の右カーブの反対車線を対向して来る原告車を認め、時速約五〇キロメートルに減速し、ハンドルを左に切つたところ、被告車の左前輪が道路の左方草地にはみ出し、かつ、同車は前輪を軸にして道路に斜めに滑走して右旋回し、同車後部荷台が反対車線を跨ぎ、同車線内に一、二メートル位侵入したうえ、同車右前部が道路左側ガードレールに激突した。

3  亡武治は、原告車(普通乗用車、千葉五六ひ四一三六)を運転して前記道路を千葉方面から茂原方面(北西方向から南東方向)に向い進行していた折柄、右のように被告車が滑走して同車の後部荷台が自車進行車線を誇ぐようになつたため、原告車の右側が被告車の右後方荷台付近に衝突し、その結果、亡武治は、頭骨骨折、脳挫傷により即死し、原告車に同乗中の亡俊二は、脳挫傷等の傷害を負い昭和五五年七月二一日午前零時五六分、右傷害により死亡した。

二  責任原因

1  被告石渡が前方不注視のまま漫然と運転した点を除き、制限速度を超えて運転し、ハンドル操作を誤つたことは同被告の認めるところであるが、本件事故現場は緩やかなS字カーブをなしており見通しが悪く、かつ、本件事故当時は降雨のため路面が濡れ、車両が滑走し易い状態にあつたから、このような場合自動車運転手としては、対向車線を車両が運行してくること予測して十分に減速し、かつ、緊急の場合に車両が滑走しないように注意して運転する義務があるのに、これをも怠り、その結果本件事故を惹起したものであるから、被告石渡に過失があることは明らかである。

そうすると、被告石渡は、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

2  被告会社が被告車を保有し、これを自己の運行の用に供していたことは、当事者間に争いがないから、被告会社は、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  葬儀費

証人橘の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一三号証の一ないし七、同第一四号証、同第一五号証の一ないし一八及び同証言を総合すれば、亡武治及び亡俊二の死亡に伴い、昭和五五年七月一八日に亡武治の、同月二二日に亡俊二の、それぞれ葬儀がとり行なわれ、その際、原告らは、寺への布施として五〇万円を、葬儀社への支払に九〇万円を、その他諸雑費として相当金員を支出したことが認められるが、そのうち、亡武治については七〇万円が、亡俊二については五〇万円が、それぞれ本件事故と相当因果関係にある損害と認められる。

2  逸失利益

(一)  亡武治の逸失利益

(1) 成立に争いのない甲第一号証の一によれば、亡武治は、本件事故当時五一歳(昭和三年七月二〇日生)であつたことが認められ、亡武治が本件事故前の一年間に訴外日本板硝子株式会社から賃金として五八二万九二二三円を得た事実については、当事者間に争いがない。

ところで、成立に争いのない乙第一号証によれば、右訴外日本板硝子株式会社においては、昭和五八年以降に五五歳に到達する者の場合、定年は五八歳であること、賃金は年齢と勤務年数で決定される本人給と年一回の人事考課によつて査定される職能給を基本給として算定され、五五歳以降定年に至るまでは基本給(諸手当、賞与を除く)が一〇パーセントカツトとなること、定年後六〇歳までは再雇用期間となり、再雇用期間中の賃金は定年時の基本給(諸手当、賞与を除く)の約二三・五パーセントダウンとなること、亡武治は、本件事故当時、本人給(一〇万八〇八〇円)職能給(一三万三六〇〇円)については既に頭打ちになつていたことが認められる。

右認定事実及び前記争いのない事実を総合すれば、亡武治は、右訴外会社から、本件事故以降五四歳までは年間五八二万九二二三円を、五五歳以降五七歳までは年間右五八二万九二二三円の九〇パーセント(諸手当、賞与は基本給を基礎として算出されるので、いずれも一率九〇パーセントに減額されると解される)五二四万六三〇〇円を、五八、五九歳は年間右五八二万九二二三円の六八・八五パーセント(九〇パーセントの七六・五パーセント)である(上記と同様一率に)四〇一万三四二〇円を、それぞれ下らない賃金を支給されるものと認め得る。また、六〇歳以降、稼動可能と認められる六七歳までの間は、右訴外会社に勤務することはできないとしても、他に就職するなどして、昭和五五年男子労働者の六〇歳から六四歳までの賃金二六五万八二〇〇円、六五歳から六七歳までは同様二四一万九二〇〇円を得ることが可能と認めるのが相当である。

(2) 成立に争いのない甲第六号証の一、二、同第九号証の一ないし一一、同第一〇号証の一、二、同第一一号証の一、二、同第一六号証の一、二、同第三二号証の一ないし三、同第三三号証の一ないし三及び証人橘日出男の証言(第一、二回)により真正に成立したものと認められる甲第四号証の二、三、同第五号証の一、二、同第七、第八号証、同第一二号証の一、二、同第三一号証、同第三四号証の一、二、同第三五号証、同第三六号証の一ないし三、同第三七号証の一、二、同第三八、第三九号証と同証人の証言を総合すれば、亡武治は、昭和五一年一月以降、砂利の販売等を目的とする訴外第一興産株式会社の取締役の地位にあり、週一回程度出勤していたものであるが、右訴外会社の業積が向上したことにより、昭和五四年九月からは同会社から取締役の報酬として月額二〇万円の支給を受けていたこと、亡武治は、将来も取締役を継続する予定であつたことが認められる。以上の認定事実によれば、亡武治は、本件事故以降、稼動可能と認められる六七歳までの間、右訴外会社から年間二四〇万円の取締役報酬を支給されるものと推測される。

(3) 以上(1)(2)を総合すれば、亡武治は、本件事故以降五四歳までは年間八二二万九二二三円の、五五歳以降五七歳までは年間七六四万六三〇〇円の、五八歳、五九歳は年間六四一万三四二〇円の、六〇歳以降六四歳までは年間五〇五万八二〇〇円、六五歳以降六七歳までは年間四八一万九二〇〇円の各収入を得ることが可能と認められる。

そこで、右収入額を基礎に、生活費の控除割合を四割とし、ライプニツツ方式により中間利息を控除して、亡武治の逸失利益の本件事故当時における現価を求めると、次の算式のとおり、四二六四万七、九〇二円となる。

{8,229,223×2.723(3年の係数)+7,646,300×(5.076(6年の係数)-2.723)+6,413,420×(6.463(8年の係数)-5.076)+5,058,200×(9.394(13年の係数)-6.463)+4,819,200×(10.838(16年の係数)-9.394)}×0.6=42,647,902

(二)  亡俊二の逸失利益

成立に争いのない甲第一号証の一と証人橘日出男の証言によれば、亡俊二は昭和五一年三月に高校を卒業し、本件事故当時二二歳(昭和三三年一月二六日生)であつたことが認められる。

亡俊二は、本件事故当時、訴外八積運送株式会社に勤務し、同社より賃金を得ていたものであり、同賃金を基準として同人の逸失利益を算定すべきところ、右賃金については、原告ら及び被告らはいずれもその証拠を提出せず、収入額を確定することができないから、昭和五五年賃金センサスにより、高校卒男子平均賃金をもつて算出することとする。

成立に争いのない甲第四一号証によれば、上記賃金センサスによる上記男子平均賃金(全産業計、全年齢計)は年間三二九万九一〇〇円であることが認められる。

右事実によれば、亡俊二は、本件事故以降、稼動可能と認められる六七歳までの間、年間三二九万九一〇〇円の賃金収入を得ることが可能と認められるから、右収入を基礎に、生活費の控除割合を五割とし、ライプニツツ方式により中間利息を控除して、亡俊二の逸失利益の本件事故当時における現価を求めると、次の算定のとおり、二九三一万九一〇一円となる。

3,299,100×0.5×17,774≒29,319,101

3  慰謝料

本件事故の態様、亡武治及び亡俊二の事故当時の年齢、社会的地位、原告らとの身分関係、前記2で認定した逸失利益算定に関する事実、その他諸般の事情を総合考慮すると、本件事故により亡武治及び亡俊二が被つた精神的苦痛を慰謝するに足る金額は、亡武治につき七〇〇万円、亡俊二につき五〇〇万円が相当である。

四  過失相殺の主張について

前記一1で認定した事実によれば、本件事故の発生原因は、専ら被告石渡にあり、その他本件全証拠を検討しても、亡武治に過失相殺に値する不注意があつたとは認められない。

もつとも、本件事故当時における原告車の速度については、直接これを認定し得る証拠はなく、間接的な認定資料としては、成立に争いのない甲第二八号証において、被告石渡が「その対向車は、相当早いスピードで進行してきており」と供述しているが、他に原告車の速度を確定するに足る証拠はなく、前記一で認定したとおり、被告車後部が反対車線に滑走侵入して、偶々同所に進行してきた原告車がこれに衝突している一瞬の事故態様からすれば、原告車に本件事故の一因を負担させるべき速度超過があつたと認めることはできない。

以上のとおりであるから、被告らの過失相殺の主張は採用し得ない。

五  損害の填補

請求原因4の事実については、当事者間に争いがない。

六  相続

成立に争いのない甲第一号証の一ないし四によれば、原告扶美子は、亡武治の妻であり、かつ、亡俊二の母であること、原告敬治及び亡俊二は、亡武治の子であること、亡武治には、亡俊二及び原告敬治以外には子はないことが認められ、これに前記一で認定した亡武治及び亡俊二の死亡の事実を加えると、原告扶美子は、亡武治次いで亡俊二の死亡により、亡武治の損害賠償請求権(三〇三四万七九〇二円)の三分の二及び亡俊二の損害賠償請求権(一四八一万九一〇一円)の全部を、原告敬治は、亡武治の死亡により、同人の損害賠償請求権の三分の一を、それぞれ相続により取得したと認められる。

以上認定したところによれば、原告らが取得した損害賠償請求金額(自賠責保険による填補後)は、原告扶美子につき三五〇五万一〇三五円(二〇二三万一九三四円に一四八一万九一〇一円を加算)同敬治につき一〇一一万五九六七円となる。

七  弁護士費用

原告らが本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、また、成立に争いのない甲第四三号証の一、二によれば、原告らが本件訴訟に先立つて、原告ら訴訟代理人に仮差押申請手続を委任したことが認められ、本件事案の内容、本件訴訟に至る経緯、審理経過、認容額等に照らせば、本件事故にかかる原告らの弁護士費用としては、原告扶美子につき一五〇万円、同敬治につき六〇万円が相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、原告扶美子につき三六五五万一〇三五円、原告敬治につき一〇七一万五九六七円及び右三六五五万一〇三五円のうち弁護士費用を除いた三五〇五万一〇三五円、右一〇七一万五九六七円のうち弁護士費用を除いた一〇一一万五九七六円に対する不法行為の日以降である昭和五五年八月一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大内淑子)

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